民法総則 > §3 権利能力

民法第3条

1.私権の享有は、出生に始まる。

2.外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。

①趣旨
 民法3条は、自然人の権利能力の発生時期一般と、外国人の権利能力の範囲について定めた規定である。
 民法起草当時は、現在の民法第1条及び民法第2条は規定されておらず、本条が民法典の第1条であった。これは天賦人権説を背景とするもので、私権はその人の出自等にかかわらず、人として生まれることにより等しく享有するという、近代市民社会の原則を確認する意義を持った。
〇権利能力の始期
 すべての自然人は、出生と同時に権利能力を取得する。つまり「生まれる」と同時に権利と義務の主体となるわけだが、では「生まれる」とはどういう状態を指すか。これについては倫理的、宗教的見地から様々な意見がある。しかし、通説は「生きて母体から完全に分離した時」を「生まれた」時とする説、つまり、全部露出説を採用している。  この点で、民法の通説は、一部露出説を採用する刑法の判例・通説と意見を異にする。
〇権利能力の終期
 民法上、人の終期に関する直接の規定はない。しかし、各条文によって「死亡」と「失踪宣告」が「人が権利能力を喪失する場面」であることが定められている。このことから、「死亡」及び「失踪宣告」が人及び権利能力の終期であると言える。
②胎児の権利能力
 権利能力の始期が出生であるとすると、出生前の胎児には権利能力がないことになる。しかし、それでは、やがて産まれる子供の利益を守れないことになりかねない。 そこで、民法は、例外として胎児にも権利能力を認めた。
不法行為に基づく損害賠償請求権(721条)
相続を受ける権利(886条1項)
遺贈を受ける権利(965条)
③胎児の権利能力に関する判例
阪神電停事件
 事案は、かなり複雑である。
 XとYは、未だ未婚ながらもも事実婚状態にあった。ある日、夫Xが電車に轢かれ、死亡。X死亡時、事実婚状態の妻Yは死亡した夫の子Zを妊娠していた。
 その後、夫の親族と鉄道会社が話し合いをし、示談が成立し、親族と鉄道会社が和解。その和解条項の中で、今後いかなる請求もしないという取り決めもあった。
 その後、胎児が出生、母が生まれてきた子とともに損害賠償請求求めて提訴した。
Zの請求としては、Xが生きていたら得られたであろう扶養料、X死亡により私生児として生きていかなくてはならないことに伴う精神的苦痛。
 判決は、生まれる前の和解は無効で、胎児の損害賠償請求は可能であるとした。要は、胎児は、生まれる前でもその権利を行使できるわけではなくて、「生まれてきたら、生まれる前の不法行為について権利行使できる」という停止条件付であり、この判例で言うと「生まれる前の和解は無効」という結論。
停止条件と解除条件
 阪神電鉄事件に見られるように、判例は、損害賠償請求や相続、遺贈の際にも、胎児であるころの権利能力は否定し、生きて生まれることを条件に胎児中のその能力を遡って肯定するという停止条件説(人格遡及説)という立場にたつ。つまり前提として胎児に権利能力はないが、"出生"という条件が成就したら「胎児だったときの権利能力があったことにしよう」とする。
停止条件とは、ある条件の成就によって何らかの効力が発生する条件をいう。
 対して、胎児中の権利能力を肯定し、死体で生まれたことを条件に胎児中の権利能力を遡って否定すべきだというのが解除条件説である、つまり前提として胎児に権利能力があるとし、"死産"という条件が満たされたら「胎児だったときの権利能力がなかったことにしよう」とする。
解除条件とは、ある条件の成就によって何らかの効力が失われる場合である。