民法総則 > §2 解釈基準

民法2条
この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。
① 趣旨
民法は明治29年に制定されたが、本条は、昭和22年、戦後に追加された。憲法が宣言した個人の尊重、両性の本質的平等という精神に則って民法は解釈されるよう示した。
個人の尊厳
 すべての個人は人間として尊重され、自由な意思が確保され、他人によって支配されないということ。
個人は独立し自由であることを示し、戸主の統率に服するという戦前の考えを廃止した。戦前のように、親が自分や家の利益の為に子を支配することは許されない。このような考え方は、民法の親族法や労働基準法などにもみられる。

例 民法798条本文 未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
 労働基準法58条
1.親権者又は後見人は、未成年者に代つて労働契約を締結してはならない。
2.親権者若しくは後見人又は行政官庁は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては、将来に向つてこれを解除することができる。
 労働基準法59条 未成年者は、独立して賃金を請求することができる。親権者又は後見人は、未成年者の賃金を代つて受け取つてはならない。

本質的平等
 男女の間にある差異は認めつつ、価値については本質的に同じであるとする。

この条文は憲法24条1項の精神を具現化している。

憲法24条1項
「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」

〇また、夫婦のみならず、親として、子としても同様に扱う。
民法818条(親権者)
第1項 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
民法887条(子の相続権)
第1項 被相続人の子は、相続人となる。

民法2条の狙いは、戦前の封建社会からの脱却に他ならず、雇主と労働者というような場面でもこの解釈基準は妥当する。男女雇用機会均等法の制定などにも見られる。

 この条文についての判例で有名なものとして、長期間の別居にある有責配偶者からの離婚請求を認めないのは、この条文の解釈を誤ったものだとして離婚を認めたものがある(最高裁昭和62年9月2日)。

④有責配偶者からの離婚請求の判例の流れ

夫が他に愛人を持ち、それがもとで妻との婚姻関係継続が困難になった場合には、夫の側から離婚を請求することは許されない(最高裁昭27・2・19)

夫が、妻との間の婚姻関係が完全に破綻した後に、妻以外の女性と同棲し、夫婦同様の生活を送ったとしても、これをもって離婚請求を排斥することはできない(最高裁昭46・5・21)

夫婦が相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、離婚により相手方が極めて苛酷な状態におかれるなど著しく社会正義に反するといえるような特段の 事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとのことをもって、その請求が許されないとすることはできない。
有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居期間が36年に及び、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである(最高裁昭62・9・2)

有責配偶者である夫からされた離婚請求において、事実審の口頭弁論終結時、夫69歳、妻57歳であり、婚姻以来26年余同居して2男2女を儲けた後、夫が他の女性と同棲するため妻と別居して8年余になるなどの事情のあるときは、夫婦の別居期間が双方の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及ぶということができず、右離婚請求を認容することができない(最高裁平元・3・28)