時効の中断→時効の更新
時効の停止→時効の完成猶予
1 裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新(147条)
1.次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
①裁判上の請求
②支払督促
③民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停 四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2.前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
趣旨
時効の「完成猶予」は、時効の完成猶予事由が発生したとしても、時効期間の進行が止まるということはない。そのまま時効期間が進行するので、時効期間が満了してしまう。ただ、完成猶予事由が発生していれば、法律で規定された一定の時期が経過するまでは時効が完成しないという効果が発生する。これに対して、時効の「更新」というのは、時効の更新事由が発生すると、今まで経過していた時効期間がご破算となり、ゼロにリセットされ、新たにゼロから時効期間の進行が始まるという効果が生じる。たとえば、5年の時効期間の場合、4年10ヶ月が過ぎたとして、時効の完成猶予の場合には、この4年10ヶ月は無駄にはならず、そのまま更に時効期間が進行し続けるが、時効の更新の場合には、この4年10ヶ月が無意味となり、新たにゼロから出発して5年を待って時効期間が満了することになる。
たとえば、裁判上の請求(訴え)は、訴えを提起した時点で、時効の完成は猶予される。そして、判決が確定した段階で、それまでの時効期間の経過がリセットされ、新たな時効が進行する。したがって、裁判上の請求は、時効の完成の猶予と新たな時効の進行(時効期間のリセット=更新)の両方の事由に該当する。
その他に、債務の「承認」の場合には、時効の更新の効果のみが生じ、時効の完成猶予の効果は生じない。逆に、履行の「催告」の場合には、時効の完成猶予の効果は生じるが、更新の効果は生じない。
2 強制執行等による時効の完成猶予及び更新(148条)
1.次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立の取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6か月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
①強制執行
②担保権の実行
③民事執行法195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
④民事執行法196条に規定する財産開示手続
2.前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。
趣旨
民法148条1項では、①強制執行、②担保権の実行、③形式競売(民事執行法195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売)、④財産開示手続(民事執行法196条)の事由がある場合に、その事由が終了するまでの間は時効が完成しないという時効の完成猶予の効果が生じることが規定されている。
また、かっこ書きで、申立ての取下げ・法律の規定に従わないことによる取消しによって終了した場合は、終了時から6か月間は時効が完成しないことも規定した。
民事執行法が定める強制執行のなかに、差押えを伴わない代替執行や間接強制などがあり、「差押え」の範囲が必ずしも明確ではなく、また差押えを伴わない手続についても、差押えと同じ効果を認めるべき合理性があると考えられた。
差押えを伴わないものも含めた強制執行全般、担保権の実行、形式競売、財産開示手続について、時効の完成猶予の効果が認められる。
3 仮差押え等による時効の完成猶予(149条)
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
①仮差押え
②仮処分
4 催告による時効の完成猶予(150条)
1.催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2.催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
5 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予(151条)
1.権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
①その合意があった時から一年を経過した時
②その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
③当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時
2.前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。
3.催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。 ※先に行われたものを優先
4.第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
5.前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。
6 承認による時効の更新(152条)
1. 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2. 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
民法152条1項は、権利の承認をすると時効の更新の効力を生じることを規定している。
時効の更新とは、それまで経過した時効期間がゼロに戻り、新たにゼロから時効期間が進行し始めることをいう。
相手方の権利を承認した場合に、時効の更新となる。
権利の承認は書面でなされたことは必要ではない。
ただし、裁判で争いになった場合には、書面がないと、立証が困難になってくるおそれが高いですので、書面があった方が「権利の承認」が認められやすい。
また、152条1項では、「その時から新たにその進行を始める。」と規定されており、承認がなされた時点をゼロとして時効期間が進行を始める
152条2項は、時効の更新となる権利の承認については、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと、権限があることを要しないと規定している。
7 時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲(153条)
1. 第147条又は第148条の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
2. 第149条から第151条までの規定による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
3. 前条の規定による時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
民法153条1項は、147条・148条に規定されている時効の完成猶予・時効の更新が、当事者・その承継人の間のみで効力が生じると規定している。
147条で規定されているのは、①裁判上の請求、②支払督促、③訴え提起前の和解・民事調停・家事調停、④破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加による時効の完成猶予・時効の更新。
148条で規定されているのは、①強制執行、②担保権の実行、③形式競売、④財産開示手続による時効の完成猶予・時効の更新。
これらの手続による時効の完成猶予・時効の更新の効力が、誰と誰との間で生じるかを規定しているのが153条1項。
なぜ、そのようなことが問題になるかというと、時効については145条で規定されているとおり、特に消滅時効に関し、債務者だけでなく、保証人や物上保証人、 第三取得者も時効を援用できることから、時効の完成猶予・時効の更新が全関係者に効力が生じるのか、その一部に止まるのかが重要な問題になるからである。
この点、153条1項は、当事者とその承継人の間のみで効力が生じるとしている。
当事者とは、時効の完成猶予・時効の更新の手続をした者とその相手方である。
その承継人とは、時効の対象になる権利を贈与や売買等で任意に譲り受けた者や相続人のことである。
153条1項の例外について
153条1項には民法上の例外規定がある。
地役権に関する284条2項・292条と保証人に関する457条1項。
重要なのは、保証人に関する457条1項で、主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる旨が規定されている。
よって、主たる債務者に対して時効の完成猶予・時効の更新の手続をとった場合は、保証人に対しても効力が生じることになる。
事由 |
条文 |
完成猶予事由 |
更新事由 |
裁判上の請求等 |
147条等 |
〇 |
〇 |
強制執行等 |
148条 |
〇 |
〇 |
財産開示手続 |
148条 |
〇 |
〇 |
承認 |
152条 |
× |
〇 |
仮差押え・仮処分 |
149条 |
〇 |
× |
協議を行う旨の合意 |
151条 |
〇 |
× |
催告など |
150条等 |
〇 |
× |
停止事由 |
158~161条 |
〇 |
× |