担保物権 > §5 先取特権

1 趣旨

 法定担保物権そもそも担保物権というのは、他の債権者に優先して弁済を受けることができる物権という意味である。
 しかも、「法定」担保物権は、当事者が約定(合意)して担保物権を設定する必要はなく、約定がなくても担保物権の成立を法律が定めている。
 したがって、ある状況の下では(特定の債権については)、法律が他の債権者に優先して弁済が受けることができるようにしてくれているのが、法定担保物権で、先取特権というのはその一種である。
 そして、先取特権というのは、いろいろ種類があって、「ある状況」というのは実にいろいろなパターンがあることに注意。
 たとえば、従業員の会社に対する給料債権について、会社が破産した場合には、会社に対する大口の債権者が多いから、債権者平等の原則で、債権額の割合で会社の財産を分配した場合、従業員の給料と大口債権者の債権では格段の差があるので、従業員はわずかの配当しかもらえない。
 しかし、給料は従業員の生活を直接支えているので、破産した会社の財産を配当する場合、従業員の給料をまず弁済してもらうことができるというのが、「雇用関係の先取特権」といわれるもので(308条)、典型的な先取特権の一種である。

2 先取特権の内容(303条)

 先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
 先取特権は、法定担保物権であり、優先弁済的効力を有するが、留置的効力はない。性質としては、附従性・随伴性・不可分性・物上代位性がある。

3 物上代位性(304条)

1. 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。

2. 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
(1)一般先取特権については債務者の総財産の上に効力が及ぶため、物上代位権は性質上認められない。
(2)質権(350条)、抵当権(372条)にも物上代位性が認められる。
(3)「金銭その他の物」とは、目的物の売却代金、目的物の賃貸料、保険金、損害賠償金等である。
(4)関連判例
①物上代位権行使の目的たる債権について、一般債権者が差押え又は仮差押えの執行をした場合であっても、その後に先取特権者が当該債権に物上代位権を行使することは妨げられない(最判昭60.7.19)。
②請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を当該動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、当該部分の請負代金債権に対して物上代位権を行使できる(最決平10.12.18)。
③民法304条1項ただし書は、抵当権と異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については、物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むから、動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない(最判平17.2.22)。

4 先取特権の不可分性(305条)

 第296条の規定は、先取特権について準用する。

先取特権の効力は、被担保債権の全部の弁済を受けるまで、先取特権の対象物の全部について及ぶ。この規定は、任意規定とされ、当事者の特約により排除することも可能である。

5 一般の先取特権(306条)

 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給

 一般の先取特権は、債務者の総財産について優先弁済を受ける権利が及ぶため、一般債権者(担保を持たない債権者)を害するおそれがある。
 そのため、本条では、一般の先取特権が認められる債権を特に保護されるべき債権に限定することで、一般債権者への影響を抑えている。
 本条に列挙された債権は、公平の原則や社会政策的考慮から、特に保護されるべき債権である。また、債権額が大きくならない債権であるので、一般債権者を害するおそれが少ない。

6 不動産賃貸の先取特権

(1)不動産賃貸の先取特権(312条)
不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在する。

(2)不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲(313条)
1.土地の賃貸人の先取特権は、その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。
2.建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。

第314条
賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。

(3)不動産賃貸の先取特権の被担保債権の範囲(315条)
賃借人の財産のすべてを清算する場合には、賃貸人の先取特権は、前期、当期及び次期の賃料その他の債務並びに前期及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ存在する。

第316条
賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。
不動産賃貸借から生じた賃貸人の債権
①賃借人の総精算の場合→315条
②敷金がある場合→316条

(4)目的物
土地賃貸人の先取特権(313条1項)
①賃借地に備え付けた動産等
例:賃借地に備え付けた灌漑用ポンプなど
②賃借地の利用のためにする建物に備え付けた動産
例:納屋に備え付けたロッカーなど
③その土地の利用に供した動産 例 賃借地又は納屋以外に置く農具など
④賃借人の占有にある土地の果実 例その土地からの収穫物

建物賃貸人の先取特権(2項)
賃借人がその建物に備え付けた動産
例:ある期間、継続して設置するために建物に持ち込んだ、金銭・有価証券・宝石・商品など
趣旨:賃貸人はこのような動産を賃料の担保として期待するのが通常であり、かかる期待を保護する。

7 先取特権の順位

(1)動産先取特権(311条)
①不動産賃貸・旅館宿泊・運輸
②動産保存(保存者が数人いる場合には後の保存者が優先)
③動産売買
(2)不動産先取特権(325条)
①不動産保存
②不動産工事
③不動産売買

8 先取特権と第三取得者(333条)

 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。
趣旨
 一般先取特権・動産先取特権は、動産上にその存在が公示されていないので、第三取得者を保護する必要がある。
 第三取得者には、賃借人、質権者は含まない。善意・悪意も問わない。
①333条の引渡しには、占有改定を含む(大判大6.7.26)。
②譲渡担保権者は、第三取得者に含まれる。譲渡担保権者は、その動産について引渡しを受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、先取特権者が動産競売の申立をしたときは、333条の第三取得者に該当するものとして、第三者異議の訴えをもって、動産競売の不許を求めることができる(最判昭62.11.10)。
③占有改定で引き渡された場合、不動産賃貸の先取特権者などは、引渡し後に生じた債権については、先取特権を善意取得できる(319条)。

9 不動産の第三取得者と一般の先取特権者・不動産先取特権者との優劣は、登記の先後による。