1 相殺
相殺とは、2人の者が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときに、一方から他方に対する意思表示により、対当額において、双方の債務を消滅させることをいう(505条1項)。
(1)相殺制限規定
当事者が相殺を禁止または制限する旨の意思表示をした場合、第三者がこれを知りまたは重大な過失によって知らなかったときに、その意思表示を第三者に対抗できる(505条2項)。
(2)相殺の方法
相殺は意思表示によって行うが、その意思表示に条件または期限を付すことはできない。
(3)相殺の可否
・双方の債務の履行地が異なる〇
・時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた〇
・悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務の債務者が、相殺をもって債権者に対抗する×
・人の生命または身体の侵害による損害賠償の債務者が、相殺をもって対抗する×
・債権が差押を禁じたものである場合、その債務者が、相殺をもって債権者に対抗する×
・差押えを受けた債権の第三債務者が、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗する×
・差押えを受けた債権の第三債務者が、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗〇
(4)不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止
次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
(5)差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止(511条1項前段)
差押えを受けた債権の第三債務者は、差押えの後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。
自働債権と受働債権の弁済期の前後を問わず、差押え前に取得した債権による相殺は無制限に認められる。
2 更改(513条)
当事者が従前の債務に代えて、新たな債務であって次に掲げるものを発生させる契約をしたときは、従前の債務は、更改によって消滅する。
一 従前の給付の内容について重要な変更をするもの
二 従前の債務者が第三者と交替するもの
三 従前の債権者が第三者と交替するもの
(1)意義
「更改」とは、当事者が、もともとあった債務の重要な部分を変更することによって、新しい債務を成立させることをいう。
(2)更改の三類型
①従前の給付の内容について重要な変更をするもの(1号)
②従前の債務者が第三者と交替するもの(2号)
③従前の債権者が第三者と交替するもの(3号)
①給付の内容についての重要な変更
給付の内容について、重要な変更をしたときは、旧債務は消滅し、新しい債務が成立したことになる(513条1号)。
例えば、AがBからダイヤの宝石を買うという契約をしたとする。
Bは、ダイヤモンドの宝石を引き渡す債務を負っています。ここで、AとBが合意をして、もともとの債務を消滅させ、ダイヤモンドではなく、オルフェーブルの仔馬を 引き渡す債務にするという債務にしたとする。給付の内容について、重要な変更があるので、更改契約が成立したようにみえる。
ただ、注意が必要なのは、給付内容の重要な変更による更改とよく似ているのが、代物弁済(482条)である。
②債務者の交替
代金を支払う債務者をAから別の人物Ⅹに変更したり、ダイヤモンドを引き渡す債務者をBからYに変更したりする場合である。
ここでも注意が必要なのは、他の制度に当てはまる可能性があることである。
債務者の交替による更改とよく似ているのは、免責的債務引受(472条)である。
従来の債務が同一性を失わずに移転するのが免責的債務引受で、同一性が失われて新たな債務が発生するのが更改である。
③債権者の交替
これと似ているのが、債権譲渡(466条以下)である。