51.AI①
■AIの定義
コンピュータの開発により、今まで哲学・数学・論理学・心理学などの領域 で論じられていた「人間の知的活動を行う機械」を作る試みが、開始されるようになりました。 1956年夏に米国のダートマス大学の キャンパスで開催された俗にいうダートマス会議において、こうした機械にAI(Artificial Intelligence:人工知能)という名称が使われ、 その研究が学問分野として確立しました。
■AIの歴史
AIには今日までに3度のブームがありました。
・第1次AIブーム:1960年~1974年
・第2次AIブーム:1980年~1987年
・第3次AIブーム:2006年~2020年
(1)第1次AIブーム
まず1960年代から世界中でAIに対する期待が高まり、第1次AIブームが到来しました。これによってAIの研究開発が本格化し、自然言語処理、エキスパートシステムなどが誕生しましたが、コンピュータ性能の限界、資金面の問題からすぐ限界に当たりました。
主役は、「推論と探索」というアプローチです。問題を探索木のような形で正確に記述することで、コンピュータに処理させる仕組みでした。 迷路を解く際にしらみつぶしに選択肢を探索してゴールを目指す場合や、チェスなどで、なるべく自分が有利になるように 選択肢を選んでいく方法などが該当します。コンピュータはこの推論と探索によって、ある程度の知的な活動を行えるようになり、この時代のキーワードは「論理」でした。
しかし、結局この時代のAIは、単純なパズルや、迷路、チェスなどのようなルールが明確で簡単なトイプロブレム(おもちゃの問題)しか解くことはできず、現実の問題に対応するには役に立ちませんでした。このため、実用化には至らず、社会に大きな影響を与えることなく、ブームは終結しました。こうして1970年代後半にAIは「第1期冬の時代」を迎えることになります。
(2)第2次AIブーム
1980年代になると、高性能コンピュータの登場によってAIの実用化が広く進められ、エキスパートシステムが世界の多くの企業で採用されました。これが第2次AIブームです。第2次AIブームは、人がコンピュータに知識を教える時代でした。そこにあったのは「現実の問題を解くためには、専門家(エキスパート)の知識をコンピュータに入れれば賢くなる」という考えです。例えば、専門医の知識をコンピュータに移植すれば、患者の症状から病名を推定できると考えられました。 このエキスパートシステムによってAIの応用範囲を、1次AIブームの時のような簡単な問題だけではなく、現実的な医療診断や会話アプリケーションなどにも広げることができることがわかってきました。
しかし、これを実現するには専門家のありとあらゆる知識をコンピュータに教え込まなければならず、多数のルールを教えていると互いに矛盾するようなルールも出てきてしまうことがわかってきました。コンピュータはパターンに当てはまるようなふるまいしかできないため、矛盾したルールにぶつかるとそこで停止してしまいます。また、教えていない例外的な事例が出てくるとコンピュータは対処できません。従って、コンピュータに知識を教えられるのは特定の領域に限られており、例外も起こりうる複雑な現実世界には全く対処できませんでした。このブームも失望とともに終結し、AIは「第2期冬の時代」を迎えました。
(3)ブレークスルーと第3次AIブーム
やがてAIには、3つの大きなブレークスルーが起こります。
●ベイズ統計学の採用
まず2001年、マイクロソフトのビル・ゲイツが、当時は非主流派統計学であったベイズ統計学を経営戦略の中核にすると宣言しました。そして、ベイズ統計学によってインターネット上での膨大なデータを扱う技術が次々と開発され、迷惑メールのフィルタリングや、Googleの躍進の原点となった検索エンジンなど、様々な産物を生み出しました。
●機械学習
もう一つは、与えられたデータにあるパターンや経験則をコンピュータが自律的に認識し、新たな未知のデータに対しても答えを導き出すという「機械学習」の登場でした。 ベイズ統計の実用化も機械学習の登場も、エキスパートシステムのように「人間が教える」のではなく、「機械が自分で学習する」という点で偉大なブレークスルーだったと言えます。
●ディープラーニング
極めつけは2006年、カナダのトロント大学のジェフリー・ヒントン教授による、「深層学習」(ディー プラーニング:Deep Learning)の発表でした。 さらに6年後の2012年、AI分野の画像認識に関する国際大会であるILSVRC2012において、深層学習が従来手法とは比較にならないほどの高い認識率を示したことが示されたことから、一段と高度化したAI技術の活用が改めて注目され、第3次AIブームが到来しました。
2015年には、AIは人間の認識率95%を凌駕する視覚認識能力を示しました。続いてAIがチェスに続き囲碁でも世界チャンピオンに勝利を収めるというできごとがあり、ついにAIが人間を追い抜いたと話題になりました。こうして今回の「第3次AIブーム」はさらなる盛り上がりを見せています。
■コンピュータが自ら学ぶ時代
第3次AIブームのキーワードは、「学習」です。ビッグデータ(数値やテキスト、画像、音声などの様々な大量データ)からコンピュータ自身が知識を獲得する「ベイズ統計学」、「機械学習」が実用化され、知識を定義する要素をコンピュータが自ら習得する深層学習が登場したことによります。
これには、Webの登場で大量のデータを学習に活かせるようになったことも背景にあります。例えば、AmazonはWebを通してユーザーの購入履歴から顧客が何に興味があるかを推理し、推奨品を提示してきます。これはベイズ統計学を応用したアソシエーション分析と機械学習を応用した強調フィルタリングによって行われています。またGoogleは、検索した単語、閲覧したWebサイトなどから、ユーザーが何に興味を持っているのかを推理して、興味をひきそうなWeb広告をその人専用に提示する。ここにもベイズ統計学が応用されています。
AI将棋ponanzaが人間の名人を下したのも記憶に新しいですが、2015年にはGoogleのAI囲碁「アルファ碁(AlphaGo)」が2人の囲碁の世界トップクラスの棋士を破りました。AI将棋、Al囲碁は、プロ棋士たちが集まって真剣勝負をするWebサイトにAIが「人間」を装って参加し、プロ棋士たちを次々と倒して、プロ棋士の間で話題となりました。プロ棋士でさえ、顔が見えない状況では相手が人間なのか機械なのか、区別することができなかったわけです。
■AIの扱うデータ
AIは、扱うデータによって、さまざまな活用方法があります。従来は扱うことが難しかった画像やテキスト、音声を扱うことができることが特徴です。
①「画像認識」
AIの代表的な活用分野は、写真や映像を認識する「画像認識」です。従来、画像を認識するには、動画内の物体に対して、色や形など、細かいルールを作る必要がありました。しかし、AIを活用すれば、膨大なデータを学習することで、物体の特徴を自律的に取得し、認識することができます。
②音声認識
AIを活用して音声を認識することで、さまざまなデバイスを操作できるようになっています。また、会議の録音データから自動的に議事録を作成するなど、音声認識の活用の幅が広がっています。
③自然言語処理(テキスト処理)
AIを活用して人間の言語(自然言語)を機械で処理することが可能です。「話し言葉」から、論文のような「書き言葉」までの自然言語を対象として、言葉が持つ意味を解析する処理技術です。
④データの予測
AIは過去の時系列データを学習することで、未来の数値などを予測することができます。店舗の売上や、株価、在庫量など、多くの場面でAIによる予測が活用されています。また、データの分析や予測をより高い精度で行うことができるため、リスク予測が可能になります。