課題1 AIの基礎理解

第1章 AIとは

AI(人工知能)とは、「人間の知的な働きをコンピュータ上で再現しようとする技術」の総称です。ここでいう「知的な働き」とは、単に計算を早くこなすことだけを意味しません。私たち人間が日常生活の中で当たり前に行っている「理解する」「判断する」「学ぶ」「推論する」「創造する」といった一連の思考の流れを、機械にも実現させようとする試みがAIの根本にあります。つまりAIは、コンピュータを“単なる道具”ではなく、“知的に考える存在”に近づけようとする技術体系なのです。

AIという言葉が初めて提唱されたのは1956年、アメリカ・ダートマス大学で開かれた会議がきっかけでした。計算機科学者のジョン・マッカーシー教授に代表される当時の研究者たちは、「もし人間の知能を明確なルールとして記述できるなら、それを機械にも学ばせることができるのではないか」と考えました。これが人工知能研究の出発点です。そこから今日に至るまで約70年の間、AIは理想と現実の間を行き来しながら、大きな波を繰り返して発展してきました。

初期のAIは「ルールベース型」と呼ばれるものでした。人間があらかじめ「もしXならYをする」というルールを大量に設定し、AIはそのルールの範囲内でのみ判断を行いました。たとえば、ある医療支援AIでは「体温が38度以上で、咳と鼻水がある場合は風邪の疑い」といった形で条件を決め、その条件に当てはまるデータを検出すると警告を出すよう設計されていました。これは単純な仕組みですが、限られた条件下では非常に強力で、工場の品質検査や銀行の与信判断、交通制御など、明確な基準がある分野では今も現役で使われています。

ただし、この方法には致命的な弱点がありました。それは「ルールを知らないことには対応できない」という点です。現実社会には、明文化できないあいまいな事象が数多く存在します。人の感情や文脈、状況によって変化する要素、あるいは複数の要因が複雑に絡み合う出来事など、単純なルールではとても扱いきれません。たとえば、「顧客が商品を購入しそうかどうか」「メールの文面が好意的か否定的か」「天候や経済の変化が売上にどう影響するか」――こうした問題は一つの条件では表せず、人間の経験や直感に近い“柔らかい判断”が必要になります。