第1章 ビジネス文書作成:議事録作成の効率化
事例:コクヨ株式会社 × AI議事録ツール「スマート書記」(エピックベース株式会社)
1.事例の概要
コクヨ株式会社では、グローバルステーショナリー事業本部の会議において、議事録作成に大きな時間と労力がかかっていた。約2時間のWeb会議に対して、会議中の発言をそのまま口語で記録し、話者も明示する形で議事録を作成していたため、会議後に音声を聞き直しながらまとめる作業だけで4時間以上かかることもあった。
Web会議ツールに備わっている文字起こし機能を使うようになってからは、「一から全て書き起こす」手間は減ったものの、社内特有の専門用語が正しく変換されないことや、拠点ごとに1つのマイクで複数人が話すため話者の識別がうまくいかないことから、結局は3時間程度の修正作業が必要だったという。
こうした課題を解消するために、コクヨ株式会社はエピックベース株式会社が提供するAI議事録サービス「スマート書記」を導入した。その結果、約2時間の会議に対する議事録作成時間は約30分まで短縮され、作業時間を約90%削減する効果が得られたと報告されている。
以下では、この実例をもとに、前提・課題から導入後の効果までを整理する。
2.前提:会議の特徴と業務の背景
・対象となった会議は、文具の企画・開発・販売を担うグローバルステーショナリー事業本部における会議であり、「Campusノート」のような商品を扱う組織で、業務プロセス効率化や受発注システム構築などを担当する部門が関わっている。
・会議は全国各地の拠点からWeb会議で参加する形式で行われており、拠点ごとに1つのマイクで複数名の発言を拾うため、音声上は話者が混ざりやすい環境であった。
・議事録は「発言のニュアンスが伝わるように」口語のかたちで具体的に記載し、誰がどの発言をしたのかがわかるように話者も明記する形式で作成されていた。
3.導入前の課題
(1)議事録作成にかかる時間の長さ
約2時間の会議に対して、導入前は4時間以上かけて議事録を作成しており、Web会議ツールの文字起こし機能を使うようになってからも約3時間の作業が必要だった。
(2)文字起こし精度と専門用語の問題
Web会議ツールの文字起こしでは、社内の専門用語や固有名詞がうまく変換されず、誤変換の修正に多くの時間を取られていた。
(3)話者の識別が困難
拠点ごとに1つのマイクで複数名の発言を集音するという環境のため、誰がどの発言をしたのかを議事録上で特定する作業に時間がかかっていた。
このように、「すでにWeb会議ツールの文字起こしは使っているが、それでも作業時間が長く、精度や話者識別の面で限界がある」という状態が課題となっていた。
4.導入したツールと選定理由
導入されたツールは、AI議事録サービス「スマート書記」である。
(1)文字起こし精度の高さと専門用語への対応
Web会議ツールと比較して文字起こし精度が高く、社内専門用語を事前に「用語登録」することで、従来は誤変換されていた用語も正しく変換できるようになった点が評価されている。
(2)話者識別機能
AIが声質などから自動的に話者を認識し、「誰がどの発言をしたか」を可視化できる機能により、発言者特定の負担が大きく軽減されたとされている。
(3)議事録作成に適した画面構成と使いやすさ
画面の左側で議事録を編集し、右側で文字起こし結果を確認できるレイアウトになっており、1画面上で必要な情報を見ながら編集を進められる点が「議事録がまとめやすい」と評価されている。
これらの点から、「単なる文字起こし」ではなく「議事録作成そのものを効率化するツール」として導入が決定された。
5.利用方法の概要
・会議の音声をスマート書記で録音・文字起こしし、その結果をもとに議事録を編集する。
・事前に社内の専門用語を登録しておくことで、文字起こし時の変換精度を高め、修正作業を削減する。
・AIによる話者識別機能を用いて、発言ごとに話者が紐づくため、「誰が何を言ったか」を確認しながら議事録を構成できる。
・議事録の編集画面と文字起こし結果が1画面に並んで表示されるため、書き起こし内容を参照しながら効率的に文書を整形できる。
・必要に応じて、特定の箇所の音声にジャンプして聞き直せる機能を活用し、発言のニュアンスや臨場感を確認しながら文章を整えることができる。
6.導入後の結果
・約2時間の会議に対して4時間以上かかっていた議事録作成時間が、導入後は約30分で済むようになり、作業時間をおよそ90%削減することができたと報告されている。
・専門用語の変換精度と話者識別機能の向上により、音声の聞き直し回数が大幅に減少し、そのことが時間削減の主要な要因となったと説明されている。
・議事録上の特定箇所をクリックして、対応する音声をピンポイントで再生できるようになり、文字だけでは伝わりにくい「その場の温度感」も確認しやすくなったとされている。
7.この事例から読み取れるポイント
・すでにWeb会議ツールの文字起こし機能を使っている場合でも、「専門用語」「話者識別」「編集のしやすさ」といった観点で専用ツールを導入することで、さらに大きな効率化が得られる可能性がある。
・議事録はほぼすべての組織で発生する業務であり、AI議事録サービスは「適用範囲が広く、効果が具体的に測りやすい」活用領域の一つである。
・時間削減だけではなく、「誰が何を言ったか」「どのようなニュアンスだったか」といった情報を構造化・可視化することで、会議の振り返りや意思決定の透明性向上にもつながる。